「あれ?また減ってる・・・」毎月積み立てている投資信託の評価報告書を見て呟く。
「先月も増えてなかった・・積立分だけでも増えてくれればいいのに・・・」そう思ってはがきを引き出しにしまった。「下がった時こそ口数が多く買えるから喜ぶべきだ」って言っていたし、今がそうなんだろう・・・そう言い聞かせた。2018年の冬だった。
それから1年半、その評価報告書はもう届かない。積立投資は続けているが、残高が増えても減っても理由に察しがつき納得できるようになった。そして何より、私の長期投資は順調だ。その顛末と杉本サロンについて記そうと思う。
今から17年前、出産を機に投資信託への積み立てを始めた。銀行などから勧められるままに色々なファンドへ少しずつ積み立てをしてきた。特にファンドAは、およそ4時間にも及ぶ長時間のセミナーを開催し、このファンドが唯一無二かつ将来性があって、今契約できることが一世一代のチャンスだと思わせるようなものだった。
盲目的に積み立てを続けたのは、わずかながらも増えていたからだ。決して詐欺ではないし健全な経営をしているのだろうと思う。ただ思ったほどは増えないし、それがなぜなのか自分で説明できないことも問題のような気がしてきた。さらに3つの疑問がわたしを悩ませた。
疑問1 お金を眠らせているのでは?
報告書を見ると、小さく下の方に「今月も買い付けを見送りました」と書いてあった。今思えばそのファンドAは「アクティブファンド」に分類され、市場のパフォーマンス以上の利益獲得を目指す方針の商品だった。例えば日経225の平均株価指数に連動するファンド(インデックスファンド・パッシブファンド)なら、毎日日経225銘柄を機械的に買っていくわけだが、このファンドは「安い時だけ買う」「高い時だけ売る」という運用をしているため、「今は安くない」と判断すれば買わない、というわけだ。ということは、時には何か月も売買されずにこの会社に現金が蓄積されるだけとなってしまう。これはお金をただ眠らせているだけでは?・・・それが第一の疑問だった。
疑問2 誰が運用しているの?
そこで私は投資信託会社に電話をしてみた。
「あのう、今月も買い付けをしてないのはなぜなんでしょうか?」
「今は株式が不安定な時で、まだ下がると思ってるんです。もう少ししたら底だと思うので買い付けをしますよ」
「売買の判断は、誰がいつ決めてるんですか?」
「毎週、投資会議を開いて売買を決めてるんですよ。誰かの独断と偏見で決めているわけではないのでご安心下さい」
「インデックスファンドというのも世の中にあるようなのですが、これとは何が違うのですか?」
「うーん、あまり違わないですよ。長い期間で見ると結局はほとんど同じになります」
・・・何か腑に落ちない。皆で会議をして決めるって、誰が?その人が間違っていたら?知らない人にお金を任せていいのかな?それが第二の疑問だった。
疑問3 膨大な広告宣伝費はどこから?
もう一つ積み立てていたファンドBは、ネットで「投資信託 おすすめ」で検索すると必ずヒットする大型ファンドだった。間接的にインデックスに投資するファンドで、口コミを見れば、もうそのファンドは長期投資家だったら誰でも持ってるよね?と思うほどだった。毎月郵送されてくるレポートには各地のセミナーの案内や素敵なスーツを着たファンドマネージャーのインタビュー記事が載っていて、わたしに安心感を与えるのに充分だった。
しかしなぜネットでこんなに宣伝をしているのだろう。全国のあちこちでセミナーも開催してるし。宣伝費用も相当かかるだろうに・・そのお金はどこから・・・?それが第三の疑問だった。
新しい扉を開くまで
アクティブファンドとインデックスファンドの違いがあることがわかった私は、ネットでファンドの批評サイトを読み漁った。どうやらファンドには信託報酬という手数料のようなものがあって、この手数料が高いと運用利益が目減りしてしまうため、信託報酬の低いものを選ぶことが大切だ、ということがわかった。もう春になっていた。
8月になり、私のファンドは少し息を吹き返したが、翌月にはまた失速ということを繰り返していた。「納得できる投資をしよう!」そう思ってTwitterでかねてから気になっていたひとつのサロンに入会した。「金融リテラシーを身に付けるための大人のサロン」それが杉本サロンだった。月5千円の会費は、それなりに勇気がいるものだった。
杉本サロンへの入会
サロンはチャットを中心に運営されていた。サロン主からガイダンスを受け、「では自己紹介コーナーへ自己紹介を載せてください」と言われ、半日悩んで自己紹介を書いた。「投資仲間や相談相手もいなかったところ、Twitterで本サロンを知り、お仲間に入れて頂くことになりました」「一般庶民代表、みたいな私ですが経済や金融の知識を広げ、自分に自信の持てる資産管理ができればいいなと思います」と書き、ああ、わたしは今まで仲間も相談相手もいなかったのだ、と急に自覚した。
チャットの中は、色々なカテゴリがあって、毎日いろいろな情報が入ってくる。特にサロン主が一日に何通かピックアップするニュースを読み解くことが必要だった。
もちろん、なじみのない金融や経済ニュースの中身など分かるわけがない。「金利」「中央銀行」「ダウ」「利回り」「レポ」「FF金利」用語を調べるところからだ。毎週ニュースをサロン主と一緒に読み解いて頂きながら、ノートになぐり書きする。わかったようでわからない、わからないことがさらにわからない・・・そんなことをスマホを握りしめて調べているうちに、ブラウザの「お気に入り」は経済・金融のショートカットで埋め尽くされた。
1ヶ月が過ぎ、私にアウトプットコーナーが与えられた。「その週に起こったことと相場の振り返りを書きましょう。アウトプットを書くことが一番自分の学びになるから。コーナー名は何にする?」とサロン主は尻込みする隙も与えずわたしに一つチャットコーナーを割り当てた。すでにサロンメンバーの何名かが毎週末に1週間の振り返りをレポートしていた。
このアウトプットがとても苦しかった。今でも苦しい時がある。不思議なものでニュースを読んで理解したつもりでも、自分で一度咀嚼し消化できないとレポートは書けない。わからない用語の意味を調べ、何がどうなってるのかを整理し、自分の考えも取り入れながら約1000字程度の「今週の振り返り」を書くのに、土日のすべて使うこともあった。毎週末パソコンの前でウンウン唸っているわたしを、家族は不思議な目で見ていたようだ。唯一の救いは、そうした作業は、知的好奇心が満たされる面白さが少なからずあったことだ。ある日サロン主から電話が来て、「今週のアウトプット良かったよ」と言って頂いた時は涙が出そうだった。ここまでおよそ8か月・・・わたしはとても要領が悪いのだ。
長期投資に関しては、サロンメンバーも一緒になって相談に乗ってくれた。その上でわたしが出した結論は「すべて解約して、最初からポートフォリオを組み直す」というものだった。その理由は、①インデックス投資 ②安い信託報酬 ③分散投資 ④必要に応じて配分調整(アロケーション)が可能 ということを全て満足することがセオリーである中、わたしのファンドAもBも、①と②を満足できていなかったからだ。ファンドAの信託報酬は3%なんです、と打ち明けたわたしに、サロン仲間は「それは増えなくて当然だよ、今気づいて良かったね」と慰めの言葉をかけてくれた。
これまでコツコツ積み立てたファンドを全て解約するのは勇気のいる作業で、目をギュッと閉じて解約ボタンを押した。
それから一年半
評価報告書を見てため息をついていたあの頃から1年半もかかってしまった。そこから利下げがあったり、米中貿易摩擦がくすぶったり、コロナショックが起こったり、原油先物がマイナス価格になったり・・・世界では想像もつかない出来事が続いている。しかしニュースを読み解き、何が起こっているのかを調べ、他者の意見も聞き、自分なりに見通しを考えるという作業を繰り返している今は、自分の資産が増えるのか・減るのかに対しての「よくわからない不安感」は激減した。長期投資は見通しに基づき配分調整(アロケーション)を適時行っているが、今はうまくいっている。
長期投資の道は長いのだからコツコツ積み立てるしかない。しかしお金だけを積み立てるのではなく、知識や経験の積み立ても一緒に始めて欲しいと思う。長期投資と学びはセットで考えるべきで、学ぶ覚悟を持たなければ納得できる資産形成に近づくことはできないと切に伝えたいと思う。私の失敗談が誰かの役に立てば良いなという思いだ。
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