母親との蜜月と長期投資

わたしは母親が大好きだ。母親がこの世を去ったら明日からどうやって生きていけばよいかわからない。だから万が一、母に最期が訪れたなら、毎日を蜜月のように過ごすために長期投資を実践している。母は68歳だ。

65歳を超えたあたりから「毎日大変だ」「あちこち痛い」と愚痴をよくこぼすようになった。そして私のよりも高性能なスマホを持ってきて、「これはどうやるんだ」といちいち聞いてくる。そんなのググれば書いてあるよ、と言うと「ググるって何?」「何を言っているかわからない」と背中を丸め情弱なふりをする。でもわたしは知っている。大好きな旅行に行くとなると、何時間もかけて効率のよい航空ルートを探し、口コミを見まくってホテルやレストランを予約するという 高い検索能力が発揮できるということを。

母は私を産む時、難産で出血多量となり死の淵を彷徨った。だから子供はわたし一人。親戚がもう少し子離れしたほうがいいと心配するほど、愛情は注げるだけ注いでもらった。酒が好きで一年中父との晩酌は欠かさない。人間ドックに入った時「酒を飲んでないのに手が震えない!わたしアル中じゃないかも!」と喜び わたしを呆れさせた。

45年前に私が生まれ、両親は「あきこの友達が遊びに来た時に恥ずかしい思いをしないように」と、茅葺きの家から新築に建て替えた。両親が23歳の頃だった。今から45年前の金利は8%を超えており、およそ20年超高金利が続いたことで、両親は800万円の借金に対し1,600万円を返済した。45年前の高卒初任給がおよそ6万円程度であるから、今の物価なら2,500万円の住宅ローンを組んで5,000万円を返さなければならない感覚だ。だから昔から「あきこ、家なんか建てたら生活するだけで精一杯だよ。だから少しずつ直して長く住むんだよ」と事あるごとに言うものだった。

そんなことだから、23年前にわたしが結婚して同居する時にはこの家を私たちに譲り、自分たちは奥に建て増しをしてしまった。だからやたらと奥行きがあって使いづらいヘンテコな家になっている。わたしの娘がもし結婚して同居するとなったら、どうすればいいのだろう・・・この家を取り壊して建て替えるとなったら大変なことになるよね・・・と両親の愛情は歪んだ形でわたしを悩ませている。

高校を卒業してすぐに就職した母は、田舎の御多分にもれずずっと低い収入で働いてきた。田舎で高卒が働くといったら職種なんて選べるわけもなく、母は事務・営業・製造などいろいろな仕事をした。弱電製造会社で工員として働き、仕事が終わればすぐに買い物をして夕飯の支度をする毎日。休みは日曜だけ。次々とベルトコンベアーから流れてくる製品を息つく暇もなく必死に製造していたある日、全身を強い痒みに襲われ仕事ができなくなった。ノイローゼだった。わたしが小学生の頃だった。

そして中学に入るころ、父は事業を始めた。小さな鉄工場だ。母は事務だけ手伝うという約束だったが結局一緒に工場で働いていた。それから30年が経ち、両親は「今年こそ辞めて工場をたたむ」と言い続けながらも、仕事が入れば断れず細々と続けている。国民年金しか無い両親は「仕事をたためば、好きなゴルフや旅行を減らさなければならないから」と言い訳をするが、本心は私たちに経済的な負担をかけたくないという想いであることを知っている。

田舎は共働きが当たり前だ。個人収入が低いため、世帯収入を上げないと生活できない。車はひとり1台所有の完全な車社会のため、子育てに匹敵するぐらいの費用が車にかかり負担も多い。「働き方改革」「女性躍進」が叫ばれていても、やはり女性がバリバリ働くためには家族の助けが不可欠だ。平日は母が夕飯の支度をし、子供の帰宅に「おかえり」とわたしの代わりに出迎えてくれたからこそ仕事に打ち込めている。母がいなくなれば、生活が激変することは必至だ。残念なことに父も夫も、母ほどの助けにはならない。

そんな母にも小さな愉しみが増えた。わたしがサロンに入会し、さまざまな金融の知識を学びながら長期投資を実践する中で、母も同じように長期投資を始めたのだ。長期と言っても母が実践できる期間はそう長くはないだろう。しかしスマホを見ながら今日は上がっただの、下がっただの言いながら嬉しそうにしている。「若い頃からこんなことができたら、ひと財産持てただろうね」「お金持ちはこうやってお金を増やしていたんだね」と画面を見て苦笑いしながら。ネットも無い時代 田舎で「投資でお金を増やす・守る」という発想に辿り着くのは無理だっただろう。もしも45年前から月2万円の長期投資が実践できていたら、2,000万円超が積みあがっていたはずだ。バブルがはじける前に債券に振替え、アベノミクスで株式を買っていたら、もっと高いパフォーマンスが上がっていただろう。

長期投資を成功させるには、ただ積み立てるだけではなく、自らも学びながらこれからどうなるかの見通しを考え、資産のバランスを変化させることが不可欠だ。今なら住む環境に依らず、得られる情報と機会は等しく実践できる。だから将来の時間がたっぷりある若い人達には今から長期投資に向き合って欲しいと願っている。

苦労したぶん母には寂しい思いをせず日々を楽しく過ごしてほしい。将来の夢はわたしも毎日一緒にスーパーや畑に行き、食事を作り、お茶を飲みながら次の旅行はどこに行こうか、と話に花を咲かせることだ。だからわたしは急に母に助けが必要になっても仕事が辞められるよう、長期投資で「じぶん年金」づくりを実践している。毎日ニュースやチャートを読み解いて見通しを考えるのは骨が折れるが、愉しみでもある。それは知的好奇心を満たされると同時に、自分の夢に向かってのステップでもあるからだ。老いていく母との凸凹な蜜月を後悔なく過ごしたい。長期投資はそれを叶えてくれる唯一の手段なのだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

山形在住のサラリーマン&兼業主婦。18歳の娘と夫、両親と5人3世代同居してます。2019年から老後2,000万問題を受け、じぶん年金形成のため金融リテラシー向上の勉強を開始。インデックス・個別株を中心とした長期投資を実践しながら、短期トレードはCFD・FXを勉強中です。

コメント

コメントする

目次